アジャイル型開発の効果とハイブリッドアプローチ

アジャイルプロジェクトマネジメント

アジャイル型の特徴の1つはイテレーティブ.インクリメンタルなスコープ定義で,プロダクトをマネジメントサイクル(イテレーション)の中で開発し,製品の一部を納品する(インクリメント)とされています。効果としては、イテレーティブな納品、また要求の変更や改善活動における顧客との適切な協業を通じ、生産性を向上させることができるといわれています。

一方、アジャイル型では自律型チーム下で再計画が繰り返し行われることもあるので、ミーティングや調整の工数が、比較的大きい場合もみられます。詳細要求の優先順位付けは要求提出者と開発者の協業により繰り返し行われるため、ミーティングや調整の工数が上述の生産性を達成するにあたり、トレードオフ課題となる場合もあるでしょう。特にプロジェクトの開発作業を海外他社に外注している場合、コミュニケーション計画上の工夫をプロジェクトマネージャが迫られる場合があり、当社へ支援のご相談をいただくことがあります。

国内企業のシステム開発プロジェクトにおける受注側の工夫の1つとして,アジャイル型と計画駆動型(ウォーターフォール型)の併用(ハイブリッドアプローチ)が挙げられます。計画/要件定義およびテストフェーズで計画駆動型、開発フェーズでアジャイル型併用し、計画駆動型に比べて約7-8%の文書化や変更対応コスト等のマネジメント工数の削減が報告されている事例があります。そのようなハイブリッドアプローチは、10年前からプロジェクトの現場で使用されており、2022年のdigital.ai社の3300名の調査(回答者は北米、ヨーロッパ、アジア等)によると、約50%がハイブリッドアプローチを活用しているとのことです。

但し、当社代表が過去に所属していたハイテク製品のグローバル製造事業会社では,ビジネスモデル,事業組織さらにはプロジェクトの種類ごとに計画駆動型,アジャイル型,およびハイブリッドアプローチが混在しており、若干の混乱もみられていました。また、ハイブリッドアプローチにはいくつかの類型があり(下図イメージ)、どのような条件下でどの類型のハイブリッドアプローチが有効なのか、十分検討する必要があります。過去、当社代表らは2015年から20件のインタビュー,企業100社のプロジェクトマネージャにアンケートを実施しており,その分析結果からどの条件下でハイブリッドアプローチが有効なのかといったニーズが多くみられました。

現在も同様の状況がみられるのでしょうか?次回以降のinsightでは昨今の事例もふまえながら、アジャイル型やハイブリッドアプローチが、プロジェクトの目的達成や成功に寄与するための条件を考察してみます。

参考文献:

Boehm,B. and R. Turner (2003) Balancing Agility and Discipline: A Guide for the Perplexed, Portable Documents, Addison-Wesley Professional (ウルシステムズ株式会社・河野 正幸訳 (2004)『アジャイルと規律 ~ソフトウエア開発を成功させる2つの鍵のバランス~』日経BP社)

Serrador,P. and J. K. Pinto (2015)“Does Agile Work?—A Quantitative Analysis of Agile Project Success,” International Journal of Project Management, Vol. 33, No. 5, pp. 1040-1051

英 繁, 奈加 健, 平岡 嗣, 前川 祐: 「ハイブリッドアジャイルの実践」, リックテレコム, (2013)

Digital.AI: “16th State of Agile Report,” https://digital.ai/resource-center/analyst-reports/state-of-agile-report/, 2022. (2024年1月1日アクセス)

今仁武臣, & 中野冠. (2016). 大規模 IT プロジェクトにおけるハイブリッドアプローチの計画: アジャイル型手法の併用のための検討フローの提案. プロジェクトマネジメント学会誌, 18(3), 14-19.

今仁武臣, & 中野冠. (2017). アジャイル型開発手法の適用領域とプロジェクトの成功度の関係. 日本情報経営学会誌37(1), 50-62.

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