基幹システム刷新やDXプロジェクトの現場では、資料がないわけではありません。むしろ、資料は多すぎるくらいあります。会議メモ、Fit&Gap一覧、課題管理表、業務フロー、ベンダーからの回答、週次報告書のPowerPoint、過去システムの仕様書。さらに、チケット管理システムにある課題、ToDo、QA、ドキュメントレビューの膨大なチケットと、その会話履歴。SharePoint、Excel、PowerPoint、Notionなど、情報はあちこちに置かれています。
関係者はそれぞれ「どこかに書いてあるはず」と思っています。けれども、いざ仕様を決める場になると、すぐには出てこない。前回は何を決めたのか。この要件は誰の要望だったのか。仕様書のどこに反映されているのか。品質部門の懸念は解消されたのか。営業側の顧客対応と、物流側の出荷制約は両立しているのか。
AIエージェントをPMO実務に組み込む意味は、AIに判断を任せることではありません。散らばった情報を拾い集め、要件定義とシステム仕様のつながりを確認しやすくすることにあります。
AIエージェントでPMOの仕事はどこまで変わるのか
たとえば、ある基幹システム刷新で「顧客別の出荷条件」を整理しているとします。営業部門は、顧客ごとの細かい納品条件を残したい。物流部門は、例外が増えると現場が回らないと言う。IT部門は、標準機能に寄せないと開発費も保守費も増えると見ている。
このとき、AIエージェントに期待できるのは「どの案が正しいか」を決めることではありません。過去の議事録から、同じ顧客条件が何度出てきたかを拾う。Fit&Gap一覧から、同じ論点が別の表現で重複していないかを見る。課題管理表の未決事項と、会議で決まったはずの内容に矛盾がないかを確認する。こうした地味な作業です。
地味ですが、ここが弱いとプロジェクトは後工程で崩れます。要件定義の失敗は、いきなり大きな事故として現れるというより、小さな認識違いが積み重なって、設計、テスト、移行、教育の段階で一気に表に出ることが多いからです。
会議メモ、課題一覧、Fit&Gapをつなげて読む
PMOの実務では、会議そのものよりも、会議前の準備が効きます。たとえば翌日の設計会議で「ロット管理」と「出荷判定」を扱うとします。その前にAIエージェントに、関連する議事録、課題一覧、Fit&Gap資料、業務フローを確認させ、次のような論点メモを作らせます。
- 前回までに決まったこと
- まだ決まっていないこと
- 部門間で意見が割れていること
- このまま進めると後工程で手戻りになりそうなこと
- 経営判断が必要そうなこと
もちろん、AIの出力をそのまま会議に出すわけではありません。PMOが読み、違和感のある部分を直し、現場の文脈を足してから使います。ここが大事です。AIエージェントは、PMOの代わりに判断する存在ではありません。PMOが判断する前に、情報を集め、並べ、抜け漏れを見つける下準備を助けるものです。
業務フローとシステム仕様のずれを早めに見つける
あるプロジェクトでは、要件定義の途中で、業務フローとシステム要件の対応関係を確認する必要がありました。業務フローは複数領域に分かれ、Excelのシート数も多い。フローチャートの中には、外部システムとのインターフェース、手作業、例外処理、部門間の受け渡しが散らばっていました。
【現場の事例】膨大な業務フローと課題チケットの突合限界
要件定義が佳境に入ると、To-Be業務フロー図と課題管理チケットが同時に増えていきます。Excelで数十シートに及ぶ業務フローと、課題、ToDo、QA、ドキュメントレビューとして蓄積される数千件のチケットが、別々の場所で更新され続けるわけです。
たとえば、業務フロー図にはシステム間連携の矢印があるのに、課題チケット側にはその開発要件が見当たらない。あるいは、フロー上では例外処理が残っているのに、要求一覧やテストで誰も拾っていない。こうしたズレを人が目視で追いかけ続けるのは、工数だけでなく集中力の面でも限界があります。
人が一つひとつ見れば確認できます。ただし、それを短期間で、漏れを少なく行うのは簡単ではありません。見落としも起きますし、担当者によって判断の粒度も変わります。そこで、AIエージェントを使って、フロー図や関連資料から確認すべき点を拾い出し、要件定義資料やシステム仕様と照らし合わせる試みを行いました。
AIが役に立ったのは、「全部正解を出してくれた」からではありません。むしろ、PMOが見に行くべき場所を絞り込み、論点を並べ、確認すべき抜け漏れの候補を出してくれたことが大きかったのです。
たとえば、次のような確認したい点です。
- この業務フローにはインターフェースらしき記載があるが、要件側に対応する記述が見当たらない
- この処理は手作業として残っているが、後工程のテスト観点に入っていない可能性がある
- 同じような処理が別領域ではシステム対応、こちらでは運用対応になっている
こうした候補が出てくると、PMOは会議で確認すべき論点をかなり具体化できます。会議の場で「何となく不安です」と言うのではなく、「この業務フローとこの要件定義、仕様書の対応を確認したい」と言えるようになります。
PMOも仕事の進め方を変える必要がある
ただし、AIエージェントを入れれば要件定義が勝手に進むわけではありません。何をAIに読ませるのか。どの資料を正とするのか。会議メモと正式な決定ログが食い違ったとき、どちらを優先するのか。AIが拾ったリスクを、誰に確認し、どの会議体に上げるのか。
ここを決めずにAIだけを入れると、情報は増えますが、意思決定は楽になりません。AIが出した要約をまた人が確認し、その確認結果が別のExcelに転記され、結局どれが正しいのかわからなくなる。そういうことも起こり得ます。
AIエージェントをPMOに組み込むというのは、ツールを入れることだけではありません。情報の流れと、判断の流れを設計することです。
当社のサービスについて
タクスフィア株式会社では、DX・基幹システム刷新におけるPMO、要件定義支援、AI活用の設計支援を提供しています。特に、次のような場面でお役に立てると考えています。
- 会議メモ、課題一覧、Fit&Gap資料が散らばり、論点が追いにくくなっている
- 要件定義とシステム仕様の間にあるズレや未決事項を早めに見つけたい
- AIエージェントを使いたいが、現場でどう使えばよいか設計できていない
- PMOとして、AIを使った論点整理、決定ログ、リスク抽出の運用を作りたい
AIは、プロジェクトを自動で成功させる道具ではありません。しかし、PMOがきちんと設計して使えば、要求管理や意思決定の質を上げることはできます。大事なのは、AIに任せることと、人が決めることを分けることです。
DXプロジェクトで本当に難しいのは、情報を集めることだけではありません。その情報をもとに、誰が、いつ、何を決めるのかを明確にすることです。AIエージェントは、そのための準備を助ける道具になり得ると思います。もっとも、こうした使い方を現場に入れるには、AIを使う側のPMOにも「AIが出したものをどう確かめ、どう説明するか」というマインドセットの切り替えが必要になります。
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