アジャイル開発を全体最適につなげるには――ハーベストゲームから考えるPMOのリスク管理

漁業資源シミュレーションとスプリント計画を同じテーブルで検討するプロジェクトチーム PMO

「次のスプリントに、この機能も入れよう」「今期のベロシティは落とせない」。

短いサイクルで成果を積み上げているはずなのに、メンバーは疲弊し、技術的負債が増え、開発速度が落ちていく。個人の能力や努力よりも、成果を生む基盤そのものを使い切ってしまう管理構造に目を向ける必要があります。

再生可能な漁業資源を扱う「ハーベストゲーム(Fishbanks)」は、その構造を分かりやすく示しています。

なぜ、合理的に判断したのに、2ターンで魚がいなくなったのか

ハーベストゲームでは、複数のチームが漁業会社となり、長期的な資産の最大化を目指します。漁獲を抑え、魚が再生産できる水準を守れば、安定した利益を得られる設計です。MIT Sloanも、共通資源の持続的な管理、協力と競争、交渉を学ぶシミュレーションとして紹介しています。

PMP資格者を含む実務者によるある演習では、10年間の経営を想定して3回実施しました。しかし、3回とも、2ターンを終えた時点でゲーム上の魚がいなくなりました。持続的に管理できれば全体で2,800万〜2,900万円の累計利益が見込めたのに対し、最大収益のチームでも約900万円にとどまりました。ここで扱っているのは、限られた条件を置いたゲーム上の結果です。

他チームの漁獲量が見えない状況では、「相手に先に獲られる前に、自分たちも獲る」という判断にも合理性があります。この演習では、その判断が重なった結果、次のターンに残る魚がいなくなりました。限られた情報のなかでの合理的な判断が、全体では望まない結果を生む。この構造は「限定合理性」や「コモンズの悲劇」と重なります。

スプリントの成果は、何を消費しているのか

漁業資源とソフトウェア開発は、限られた共有資源を使いながら短いサイクルを回す点で似ています。

スプリントでは、機能、ベロシティ、納期といった目に見える成果が優先されます。その陰で、リファクタリング、技術基盤、知識共有、チームの余力は後回しになりがちです。

これらは、次の成果を生むために再生を要する資源です。一定の水準を下回ると、同じ機能を作るにも時間がかかり、品質低下や手戻りが増えます。魚が減るほど一隻あたりの漁獲量が落ちるのと同じです。

問うべきなのは、各スプリントの成果と、プロジェクト全体の持続可能性を別々に管理していないか、ということです。

持続可能性をプロジェクト計画に入れる

必要なのは、アジャイルをやめることではありません。チームの余力、技術的負債、知識共有、意思決定の質を「再生させるべき共有資源」として、スプリントの成果と同じ計画のなかで管理することです。

たとえば、計画時にリファクタリングやテスト自動化の時間を確保する。レビューでは完了量だけでなく、障害の再発、レビュー待ち、属人化を見る。リスク管理では、特定メンバーへの依存や技術的負債の増加を早期警戒指標にする。見る対象を少し変えるだけで、資源の枯渇を早めに捉えられます。

アジャイル、ウォーターフォール、ハイブリッドの選択を扱った研究でも、アジャイルは要件変更への適応力を持つ一方、スコープクリープや不十分な資源管理につながる可能性が指摘されています。

“it may also lead to scope creep and insufficient resource management.”

(スコープクリープや不十分な資源管理を招く可能性もある)

変化にはアジャイルに対応しつつ、全体構造と資源配分には計画的な規律を持たせる。プロジェクトの規模、不確実性、クリティカリティに応じて、計画駆動型を組み合わせることも選択肢になります。

手法選択の判断軸と、AIエージェント・数理モデルを使った評価については、プロジェクトマネジメント手法選択の定量化にむけて――AIエージェントと数理モデルをどう連携するのかで紹介しています。国内事例を含むハイブリッド型の考え方は、アジャイル型開発の効果とハイブリッドアプローチをご参照ください。

PMOは、局所的な合理性を全体につなぐ

プロジェクト計画は、最初に作って保管する文書ではありません。成果を生む共有資源が増えているか、減っているかを確認し、投資と優先順位を見直すための基準です。

PMOには、各チームの進捗を集めるだけでなく、局所的には合理的な判断が全体に与える影響を見る役割があります。複数チームの依存関係、共通アーキテクチャ、要員の偏り、品質リスク、スコープ変更を横断して捉えることで、短期成果と長期的な開発能力を同じ意思決定の場に載せられます。

「今、どれだけ獲れるか」。そして、「次のスプリントでも、成果を出せる状態が残っているか」を問う。

持続可能なアジャイル開発体制は、共有資源の再生まで含めたプロジェクト計画から始まります。

当社のサービスについて

タクスフィア株式会社では、DX・基幹システム刷新におけるPMO支援、アジャイル型・計画駆動型・ハイブリッド型の選定、プロジェクト計画と運用設計を支援しています。システム思考型PMOや持続可能な開発体制について検討されている場合は、お問い合わせフォームよりご相談ください。

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参考文献

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