プロジェクトマネジメント手法選択の定量化にむけて――AIエージェントと数理モデルをどう連携するのか

プロジェクト文書をAIが推定し、数理モデルがアジャイル型・ハイブリッド型・計画駆動型を評価し、人が判断する流れ PMO

大規模システム開発では、計画からのずれが大きくなる傾向があります。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の『企業IT動向調査報告書2026』(2025年度調査、回答957社)によると、500人月以上のプロジェクトでは約5割(47.8%)が工期の遅延、約4割(42.2%)が予算の超過となる一方、10人月未満ではいずれも10%を下回ります。当社では、その入口にある選択、すなわち計画駆動型開発手法(ウォーターフォール型。以下、計画駆動型)、アジャイル型開発手法(以下、アジャイル型)、両者を組み合わせたハイブリッド型のどれを採るのかという開発手法の選択を、数理モデルとして定式化する研究を続けてきました。現在は、モデルに入力する変数を生成AIに推定させるプロトタイプを作成し研究開発を続けています。この開発では、プロジェクト特性の推定をAIエージェントが、手法の定量的評価を数理モデルが、意思決定を人が実施、という役割分担となっています。

アジャイル型・計画駆動型・ハイブリッド型は、何を基準に選ぶのか

基準は主に3つあります。手戻りの可能性、プロジェクトの規模(チーム数)、そしてクリティカリティ(プロジェクトの成否が事業に与える影響の大きさ)です。当社代表の今仁が共著で発表した有効領域モデル(どの条件でどの手法の総工数が最小になるのかを表す数理モデル。Imani & Nakano, 2018)は、この3つを主要な基準として3手法の総工数を比較します。選択方針は次のとおりです。手戻りの可能性が小さくクリティカリティが高いプロジェクトでは計画駆動型が、手戻りの可能性が大きく規模が小さいプロジェクトではアジャイル型が、手戻りの可能性と規模がともに大きいプロジェクトではハイブリッド型が有効となります(今仁, 2017)。数値実験の一例では、要求の不確実性が高くクリティカリティが低い条件のもとで、チーム数が5以上になるとハイブリッド型が、チーム数が13を超えかつ手戻りの可能性が非常に低い場合に計画駆動型が有効でした(Imani & Nakano, 2018)。

事例を通じた検証の結果、共通インフラ上の社内購買システムを6か国に導入したプロジェクトは、チーム数6、開始時点で約50%の要求事項が未確定のまま、アジャイル型と計画駆動型を併用して9か月で導入しました。計画駆動型と比較した工数上のメリットは、プロジェクトマネージャによる実績の評価で約15%、モデルの計算で約21%であり、計算結果はハイブリッド型の有効領域内でした(今仁, 2017)。ハイブリッド型の類型や国内での活用状況については、アジャイル型開発の効果とハイブリッドアプローチで扱っています。

AIエージェントと数理モデルは、どう役割を分けるのか

新しいモデルの当社プロトタイプでは、AIエージェントの役割を推定に活用しています。プロジェクト記述、すなわちプロジェクト憲章や要件定義書といった文書を読んで、5段階で評価する主観的な変数13個と、工数や期間などの定量的な変数14個、あわせて27個の変数の推定と精緻化がAIの仕事で、どの手法の総工数のコストメリット評価は数理モデルが行い、その評価についての意思決定を人が行います。推定・評価・決定という3つの語を使い分けているのは、いわゆるHuman in the Loopに対応しています。

評価を担うのは、前節の有効領域モデルです。変数の入力は、従来はプロジェクトマネージャの5段階リッカート尺度値の平均に頼っていました。当社は、その人による直感的評価をAIの推定で捕捉しています。

生成AIによる変数推定の精度は、何で決まるのか

推定の精度を決めているのは、AIに渡すプロジェクト記述(プロジェクト憲章や要件定義書といった文書群)の整合性です。記述の中で工数の算出方法が決まっていなかったり、チームの数え方が文書ごとに違っていたりすれば、推定のアルゴリズムを磨いても、その誤差が変数に引き継がれてしまうからです。

この整合性を推定の前に確保する方法として、当社はウエスタン・カロライナ大学等の研究に着目しています。PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)第8版の論理に整合させる形でプロンプトを構造化し、用語と境界を固定し、どの文書を正とするのかを決めた状態でAIに作業させるという提案です(Anantatmula and Harsh, 2026。構造の詳細を別稿で扱う予定です)。プロンプト構造化を通じて、AIによるプロジェクト特性の推定が完全なブラックボックスにならず、精緻化にあたってのプロセス可視化ができると考えています。

変数が確定していない段階では、どう手法を選ぶのか

確定していない変数は、根拠のない数値で埋めずに、確認すべき質問として人に返すか、幅を持たせて入力します。手法を選ぶ時点はプロジェクトの立ち上げ期でもあり、フェーズ別の見積もり工数もチーム数も、この時点では確定していないことが少なくありません。プロジェクトマネジメントで段階的詳細化(Progressive Elaboration)と呼ばれるとおり、計画は進行とともに詳細になっていくものですから、変数が確定するのを待っていられないこともあるでしょう。

当社のプロトタイプでは、文書から読み取れない変数は推定せず、確認すべき質問として列挙します。PMI(Project Management Institute)が提供するPMI Infinityの公式の活用事例でも、生成結果を検証する手順を計画書に記載することが繰り返し求められています(当社が別稿で8本の事例を整理しました)。

幅を持たせた入力も活用し、変数を幅の中で動かしても評価が変わらないかどうかを確認します。幅の中で評価が大きく変わるのであれば、どの変数を先に確定させるべきかが分かります。プロジェクトが進んで情報が増えたら、記述を書き直して推定からやり直す。この再プロファイリングの運用が、段階的詳細化に対応することになると考えています。

PM向けAI製品ごとの違いは、PMI InfinityとGoogle WorkspaceのPMスキルを比較した記事で扱っています。基幹システム刷新で顧客側PMOに何が求められるかは、別稿で整理しました。

当社のサービスについて

タクスフィア株式会社では、DX・基幹システム刷新におけるPMO支援と、AIをプロジェクト実務へ組み込むための運用設計を行っています。開発手法の選定や、生成AIを使った変数推定の進め方について検討されている場合は、お問い合わせフォームよりご相談ください。

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参考文献

  • 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS): 『企業IT動向調査報告書2026』(2025年度調査、回答957社), 図表7-1-4, 2026.
  • V. Anantatmula and R. Harsh, “AI for Managing Projects: Methodology for Developing Use Cases,” VI. International Conference on Electrical, Computer and Energy Technologies (ICECET 2026), Rome, Italy, July 2026, IEEE.
  • T. Imani and M. Nakano, “A Model for Effective Area of Hybrid Approach Combining Agile and Plan-Driven Methods in IT Project,” Journal of International Association of P2M, vol. 13, no. 1, pp. 52-70, 2018.
  • 今仁武臣: 『ITプロジェクトにおけるアジャイル型手法に関するマネジメント方法論の研究』, 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 博士論文, 2017.
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